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第9章 てんかんの服薬指導~服薬アドヒアランスの向上を目的として

服薬アドヒアランスとは

てんかん治療においては、用法、用量通りに服薬を行うことが非常に重要になってきます。不正確な服薬は発作の回数や薬の副作用の増加に繋がり、病状の悪化は患者さんの生活の質(QOL)を低下させることに繋がります。

従来、医療現場では正確な服薬を行うことを意味する用語として、服薬コンプライアンスという用語が使われてきましたが、この用語は「患者さんが医療提供者の決定に従って服薬する」ということで、必然的に「命令や要求に従順に従う」などの意味が含まれてきます。この考え方の主体は医療者にあり、実際に服薬をする患者さんにはありませんでした。

てんかんのような長期間の治療を必要とする疾患の服薬においては、医療者の努力よりは患者さん自身や患者さんの家族の意志と努力が重要となってきます。患者さんのなかには、自己判断で薬の増量を行ったり、副作用を恐がり服薬を中止する例が見受けられますが、これらは患者さんが服薬内容を積極的に了承できていないことからおこると考えられます。積極的な了承が得られていない状態は、正確な服薬を継続することに大きな障害になると考えられます。

服従させるという患者さん側の状況を考慮しない方法では、正確な服薬を継続することは難しいということから、患者さんからの積極的な参加を意識する言葉として、服薬アドヒアランスという用語が使われだしました。この用語は「患者さんが積極的に治療方針の決定に参加し、服薬する」という意味を持ち、患者さんに主体を置く考え方となっています。

最近では服薬アドヒアランスの意味で、服薬コンプライアンスを使うことが多くなってきているのですが、用語本来の意味を考慮して、あえて服薬アドヒアランスという言葉を使用しようという意識が強くなっています。

そこで今回は、良好な服薬アドヒアランスを得るために当院の薬剤師が行っている服薬指導の例を幾つか紹介したいと思います。

服薬アドヒアランス向上への支援

(1)服薬の重要性について理解してもらう

発作を抑制するには継続的な服薬が必要になってきます。長期間発作が抑制されている患者さんにとっては、服薬の必要性が感じられなくなり、怠薬につながる可能性があります。急な服薬の中断は重積状態を引き起こす可能性があり、また怠薬によって発作のコントロールが乱れた場合、元の状態に戻すのに長期間を必要とすることもあります。このような事態を防ぐために、薬が体内に存在することにより発作の抑制ができていること、また怠薬の危険性について患者さんに説明し、服薬の重要性を理解してもらうように努めています。

(2)薬の作用、副作用、催奇形性などについて

患者さんは自分の薬のことについて、非常に知りたがっています。自分の病気の治療薬なのだから、自分自身で納得したいのは当然のことだと思われます。情報提供として、当院では図1のような説明書を患者さんに渡しています。また患者さんに合わしてさらに詳しい話をしたり、理解しやすいように易しい表現に言い換えたりして説明を行っています。

薬の作用について説明をすることは、なぜ薬が必要なのかの理解を促進し、服薬を継続する意識の向上につながります。

副作用とその対処法についてあらかじめ説明を行い納得してもらうことにより、いち早く自分で副作用症状に気づき、危険な行動を避けたり、医療者に連絡するなどの適切な対処をとることが出来ます。また、あらかじめ了承しておくことにより、副作用に対する過剰な不安による服薬拒否を防ぐ効果もあると考えられます。

女性にとって、薬が胎児に及ぼす影響は重大な関心事です。服薬の中断につながらないように、妊娠時の発作コントロールの重要性、てんかん薬の催奇形性率、葉酸摂取の意義などを説明して、服薬に対する過剰な不安をやわらげるように努めています。

(3)正しい服薬方法について指導する

安定した血中濃度を得るには、毎日決められた時間、間隔で服薬を継続することが重要です。処方の指示は、寝る前を除いて大部分が食後服用という指示になっています。食後とは、食事をしてから30分以内のことを指すのですが、このタイミングで服薬すると胃壁が食べ物によって保護されるため、薬が胃を荒らすのを緩和することができます。また、薬がゆっくり胃から腸に送られるため、吸収をゆっくりにさせることができます。その他にも、食事と関連付けることにより、飲み忘れを防げるという効果もあります。食後服用にはこのような特徴があるのですが、抗てんかん薬の吸収率自体には食事の有無や食前と食後で大きな変化はありません(注:抗てんかん薬以外では、吸収率が大きく異なる場合もあります)。患者さんのなかには、仕事の都合からなかなか決まった時間帯に食事をすることが出来ない方がいます。このような場合、食事に関係なく、飲む時間帯を一定にして規則正しい服薬をしてもらうように指導しています。

また、説明書(図1)に服薬タイミングと飲む量を記載して飲み間違いを防いだり、頓服薬の正しい使い方についての指導も行っています。

(4)有害な相互作用の回避

医薬品間では同時に用いることに注意が必要な組み合わせが存在します。例えば、フェニトイン(アレビアチン、ヒダントールなど)を服薬している患者さんが、フルコナゾール(ジフルカンなど)という真菌感染症の薬を使用した場合に、フェニトインの血中濃度が上昇する可能性があるといわれています。フェニトインは濃度が変動しやすい薬であり、2剤を併用する場合、フェニトイン濃度の急な上昇に注意が必要です。このため、説明書(図1)を患者さんに渡し、服用している薬の内容を受診される医療機関に知らせるように指導しています。また、患者さんの持参薬と当院での入院処方の相互作用チェックも行っています。

食品と薬の間にも相互作用はあります。カルバマゼピン(テグレトールなど)を服用している患者さんが、グレープフルーツ、またはグレープフルーツジュースを摂取すると、カルバマゼピンの血中濃度が上昇する可能性があると最近言われ始めました。実際、カルバマゼピンの血中濃度が40%程上昇したという報告もあります。そこで、当院では、病院食にはグレープフルーツ、グレープフルーツジュースを用いないようにしました。また、指導を行っているカルバマゼピン服用中の患者さんには、なるべくなら摂取を控えてもらうように説明しています。

アルコールは、薬の分解されやすさに影響を与えますし、大量摂取することや、習慣的な飲酒の中断により発作を誘発しやすくなることから、アルコールは飲まないか、飲んでも付き合い程度で少量にするようにしてもらっています。

(5)血中濃度について

てんかんの薬物療法においては、効果の判定、副作用のチェックなどにおいて、血中濃度の測定が非常に重要な意味を持ってきます。

患者さんからの希望がある場合は、図2のような血中濃度推移をグラフにしたものを渡しています。このときに、有効血中濃度の意味、各薬剤の動態の特徴なども説明します。服薬した薬の存在を血中濃度という客観的な値で自ら確認することは、患者さんが服薬におけるモチベーションを高めるのに役立つと考えられます。

終わりに

今回は服薬アドヒアランスにおいての、治療薬と患者さんに関連した要因へのアプローチについて述べましたが、この他にも治療者側の要因(医療チーム間の連携を密にする、患者さんに話しやすい雰囲気をつくる、など)も重要になってきます。

これからの服薬指導は、薬剤師側からの一方的な指導ではなく、患者さんが進んで服薬することを支援できるものでないといけません。リハビリテーション領域で患者さんのQOL向上に更に貢献する為には、看護師による服薬指導との連携をより密にするなど、他職種と協力しあいながら、患者さんが必要としていることに添った支援をしていく必要があると考えます。

参考文献

慢性疾患患者への新しい自己管理援助(ナーシング・トゥデイ 2004年10月号)
薬剤師 野口祥紀

本稿は、日本てんかん協会発行の定期刊行誌「波」に、2004年4月号より2004年12月号まで連載された当院の職員による文章を、同協会の許諾を得て、転載したものです。本稿の内容はビデオ化されています。