薬物療法はてんかん治療の基本となります。ここでは、てんかんの薬物療法において使用される代表的な薬剤についていくつか紹介します。
主な抗てんかん薬の一般名、略語、商品名を以下に示します。
一般名(略号):商品名(*1 一般名の後発品)
- フェニトイン(PHT):アレビアチン、ヒダントール
- エトトイン(EHN):アクセノン
- カルバマゼピン(CBZ):テグレトール、カルバマゼピン*1
- フェノバルビタール(PB):フェノバール、フェノバルビタール、ワコビタール、ルピアール
- プリミドン(PRM):プリミドン
- ゾニザミド(ZNS):エクセグラン、ゾニザミド*1
- バルプロ酸ナトリウム(VPA):デパケン、デパケンR、セレニカR、バルプロ酸ナトリウム*1
- エトスクシミド(ESM):エピレオプチマル、ザロンチン
- ジアゼパム(DZP):ホリゾン、セルシン、ダイアップ、ジアゼパム*1
- ニトラゼパム(NZP):ベンザリン、ネルボン、ニトラゼパム*1
- クロナゼパム(CZP):リボトリール、ランドセン
- クロバザム(CLB):マイスタン
- ガバペンチン(GBP):ガバペン
- トピラマート(TPM):トピナ、トピラマート*1
- ラモトリギン(LTG):ラミクタール、ラモトリギン*1
- レベチラセタム(LEV):イーケプラ、レベチラセタム*1
- アセタゾラミド(AZA):ダイアモックス
- スルチアム(ST):オスポロット
- ピラセタム(PIR):ミオカーム
- スチリペントール(STP):ディアコミット
- ルフィナミド(RFN):イノベロン
- ビガバトリン(VGB):サブリル
- ペランパネル(PER):フィコンパ
- ラコサミド(LCM):ビムパット
- エベロリムス(EVL):アフィニトール
- フェンフルラミン(FFA):フィンテプラ
- ブリィビアクト(BRV):ブリーバラセタム
主な抗てんかん薬の特徴について、簡単に説明します。
- フェニトイン
- 焦点(部分)てんかんの発作、全般てんかんの強直発作などに有効です。
- 血中濃度が変動しやすい性質があり、血中濃度の測定が役立ちます。
- 稀にアレルギーのある人があります。量が多いと眠気、ふらつき、複視などの副作用が生じることがあります。歯ぐきが腫れたり、毛深くなることがあります。
- 様々な新薬の承認販売によって近年は使用頻度が減っています。
- てんかん重積状態時あるいは内服出来ない場合のための静脈内注射用製剤がありますが、より扱いやすく体内でフェニトインへと代謝されるフォスフェニトイン(ホストイン)が主に用いられています。
- カルバマゼピン
- 焦点(部分)てんかんの発作に第一選択薬の一つです。全般てんかんの発作は悪化することがあります。
- 精神症状の改善にも効果が期待できることが報告されています。気分調整剤、三叉神経痛の薬としても使用されます。
- グレープフルーツの摂取により、血中濃度が上昇して副作用が出現しやすくなることがあります。様々な薬物代謝酵素の誘導作用があり、併用している一部の抗てんかん薬の血中濃度を低下させてしまうことがあります。
- 稀にアレルギーのある人があります。量が多いと眠気、ふらつき、複視などの副作用が生じることがあり、少量からの開始が望ましいです。
- 絶対音感のある人では、音が半音階下がって聞こえるようになることがあります。
- フェノバルビタール
- けいれん性の発作に効果を期待できます。
- 注射剤として、てんかん重積状態に使用されることがあります。坐薬もあります。
- 眠気、気分低下、多動などの副作用がみられることがあります。
- プリミドン
- 体内でフェノバルビタールとフェニルエチルマロナミドに代謝されます。
- プリミドンの抗てんかん作用の多くは、体内での代謝によって生じたフェノバルビタールによるものと考えられています。
- ゾニザミド
- 焦点(部分)てんかんおよび全般てんかんの治療薬として効果を期待でき、ウエスト症候群の治療にも使われることがあります。
- 併用している抗てんかん薬の血中濃度に影響を及ぼすことが少ないといわれています。
- 食欲低下、腎・尿結石、発汗減少、気分低下、認知機能低下などの副作用が生じることがあります。
- バルプロ酸ナトリウム
- 主に全般てんかんの発作に第一選択薬として広く使用されますが、焦点発作にも効果を期待できます。
- 気分障害の改善効果もあります。また片頭痛にも使用されます
- 徐放性製剤(名前にRが付く)があり、1日の服用回数を減らしたり、胃腸系の副作用を減少させたり、妊娠中の胎児への影響を軽減させることなどを目的に使用されます。
- 飲み始めに一時的に消化器症状や眠気が生じることがあります。体重が増えることがあります。妊娠の可能性がある場合は高用量の使用は避けることが望ましいです。
- エトスクシミド
- 欠神発作に効果を期待できる薬剤です。脱力発作、ミオクロニー発作にも有効なことがあります。
- 増量に伴ってしゃっくり、吐き気、嘔吐などの副作用があります。
- 錠剤は製造中止されたため散剤とシロップのみ処方可能ですが、油のような成分のため内服の難しいことがあります。
- ベンゾジアゼピン系(クロバザム、ニトラゼパム、クロナゼパム、ジアゼパムなど)
- 抗てんかん作用に加え、抗不安、催眠・鎮静、筋弛緩作用を持っており、てんかん以外の疾患の治療にも使用されています。
- 他の抗てんかん薬の補助的な薬剤として使用されることが多い薬です。
- 血中濃度と有効性の間にあきらかな相関が認められていません。
- ジアゼパム、ミダゾラム、ロラゼパムの注射、ミダゾラム口腔用液の頬粘膜投与はてんかん重積状態の第1選択薬として使用されます。ジアゼパム坐剤(ダイアップ®)は発熱に伴うけいれんの予防やてんかん発作群発時などに使用されます。
- 内服による副作用には、眠気、ふらつき、流涎、多動、筋緊張低下などがあります。注射、頬粘膜投与の場合は呼吸抑制に注意が必要です。
- ガバペンチン
- 焦点(部分)発作の付加薬として用いられます。ミオクローヌスは悪化することがあります。
- 腎臓からほぼ100%排泄されることから、腎機能障害時には投与量を減らす必要があります。
- 併用している抗てんかん薬の血中濃度に影響を及ぼさないといわれています。
- 副作用は少ないですが、稀に眠気やめまい、体重増加があります。
- トピラマート
- 焦点(部分)発作の付加薬として用いられますが、全般てんかんの発作や小児の一部のてんかん症候群(ウエスト症候群、ドラベ症候群など)の発作にも有効な場合があります。
- 併用している抗てんかん薬の血中濃度に影響を及ぼすことが少ないといわれています。
- 食欲低下、体重減少、発汗減少、腎・尿路結石、認知機能低下などの副作用が生じることがあります。
- ラモトリギン
- 全般てんかんおよび焦点(部分)てんかんの発作に付加薬あるいは単剤として使用されます。レノックス・ガスト―症候群にも効果を期待できます。
- バルプロ酸併用により血中濃度が上昇するとともに、効果増強を期待できます。
- 錠剤は水分がなくても服用できます。粉砕調剤は推奨されません。
- 稀にアレルギーのある人があります。妊娠中は血中濃度が下がり発作が悪化することがあります。
- 添付文書記載の増量速度よりも早く増量すると重症薬疹発生のリスクが高くなるとされています。
- レベチラセタム
- 焦点(部分)てんかんの発作に付加薬あるいは単剤として使用されますが、全般てんかんの発作(強直間代発作やミオクロニー発作)にも効果を期待できます。
- 併用している抗てんかん薬の血中濃度に影響を及ぼさないといわれています。
- 腎機能障害時には投与量を減らす必要があります。
- 眠気やいらいら感などの副作用がみられることがあります。
- スチリペントール
- ドラベ症候群にのみ使用可能です。
- バルプロ酸およびクロバザムと併用して使用されます。これらの薬物の血中濃度を上昇させることが多く、それぞれの血中濃度を測定して用量調節の必要な場合があります。
- 主な副作用は眠気、食欲低下などです。
- ルフィナミド
- レノックス・ガストー症候群にのみ使用可能です。
- バルプロ酸との併用で本剤の血中濃度が上昇することがあります。
- 主な副作用は眠気や消化器症状です。
- ペランパネル
- 焦点(部分)てんかんの発作や強直間代発作に使用されますが、進行性ミオクローヌスてんかんの強直間代発作やミオクローヌスなどにも効果を期待できます。
- 併用している抗てんかん薬の血中濃度に影響はありませんが、カルバマゼピンやフェニトインにより本剤の血中濃度が下がることがあります。
- 主な副作用は眠気やふらつきです。このため就寝前に服用します。いらいら感を生じることがあります。
- ビガバトリン
- ウエスト症候群(点頭てんかん)の発作(てんかん性スパズム)に対して適応があり、結節性硬化症を有する場合には特に有効です。
- 主な副作用は視野障害、視力障害です。実生活で影響のあることは稀ですが、認定を受けた医師と薬剤師のみが処方・調剤可能で、連携している眼科での定期診察が義務づけられています。