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成人の難治てんかんと日常生活

3年間のてんかんの薬物治療にかかわらず、発作頻度がほとんど変化しないか、あるいは発作の増加した場合を“難治てんかん”と定義すると、15歳以上では全てんかんの25%を占めるといわれています。これらの方々は発作が抑制されていないために、日常生活場面でさまざまな制約が生じ、その中で平行して医療も受けていくという、困難な作業が必要です。今、小児の難治てんかんを介護されているご家族の方も、ひょっとして成人した後も発作がとまらなかった場合、あわてなくてすむように読んでおいていただきたいと思います。

1.家庭生活

生活時間の半分以上は家庭内で過ごします。そこでは睡眠、食事、性生活、更衣、入浴、娯楽などが営まれます。ここで最も必要なのは精神的・肉体的な慰安、くつろぐことです。ここで難治てんかんの場合一つのジレンマが生じます。

それは、発作による受傷や窒息を防ぎ身体の安全を図ろうとすると、くつろぎにくくなることです。例えば、一般には15歳以上の人は夜間一人で寝ますが、睡眠中に全身のけいれんの発作のある方を例にとると、それでは発作後の窒息がおこるおそれがあり危険です。そのために同居人(親、兄弟、その他)とともに寝ると、今度はうっとうしくなってしまいます。その解決方法は、見えないけれども気配はわかる程度の距離に同居人に寝てもらうことです。例えば、ふすまをへだてた隣の部屋や、同じ部屋でも家具でブロックが区切られているなどが良いと思います。階が異なり、しかも鍵のかかる寝室は最も望ましくありません。そのような方の場合、ゲームをしたりする時にはそういう個室でも良いのですが、眠るのは前述の方法が良いと思います。

要は、自分の発作がいつおこりやすいかを知り、一人一人に応じて、安全確保とくつろいだ生活とのバランスをとることです。この時完全を期そうとすると、にっちもさっちもいかなくなりますので、最悪の事態(死亡や重篤な外傷)を避けることを主眼にして、たんこぶや擦り傷くらいはしょうがないと合理的に考えることが大事です。

2.社会生活

成人の場合の社会生活は、まず第一に仕事、第二が家人以外との交流や娯楽が主体となります。この場合も、家庭生活と同じく安全の確保が大事になりますが、実際には家庭外では時間もより短く、かつ本人も周囲も気がはっていますので、家庭内よりもむしろ事故は少ないように私は感じています(ただし水の事故はこの限りではありません)。

かわって、最も大事になってくるのは自分の発作をいかに社会に受け入れてもらうかということです。くだけた表現をすれば、発作があっても周囲の人にびっくりしないようになってもらうかということです。ある患者さんは発作中に自動症でぴょんぴょんと飛ぶような動作をします。もし、信号を待っている時におきたらまわりの人はびっくりして注目するでしょう。この方は数人の友人とでかけた時は友人が周囲を囲んで自然と飛ばないようにしてくれるそうです。さて1名の友人と出かけた時にはどうでしょうか。一人では囲めないので機転をきかせた友人は、手をつないでいっしょにその場でぴょんぴょん飛んでくれたそうです。一人ですると変な動作でも二人ですると周囲は“楽しそう”と思うだけで、不審に思われなかったそうです。以上はお母さんが友人から聞いて、友人への感謝の気持ちとともに私に話してくれたことです。

以上の例からおわかりいただけることがいくつかあると思います。まずその難治てんかんの人に親しい友人がいること、第二に友人が発作症状をよく知っていること、第三にその人の周囲に発作関連の事をフランクに話し合える雰囲気があることです。今、成人の難治てんかんやそのご家族で、社会生活上悩んでいらっしゃる方があれば、こころがけていただくことが浮かび上がってきます。

1)親しい友人あるいは介助者をつくること。

2)その人に発作の説明をし協力を依頼すること。

3)前向きに考え、周囲に解放的で明るい雰囲気を作ること。

“友人あるいは介助者”は、“同僚”でも“恋人”でも“配偶者”でも“ヘルパー”でも“ボランティア”でも結構だと思います。

3.日常生活と医療

ここまで考えてきますと、成人の難治てんかんの場合、単身生活あるいは家族を離れた共同生活はかなり困難であることが、おわかりいただけると思います。しかし、わたしは、次のいくつかの条件をそろえれば、可能であると考えています。このとき、重要な役割をになうのが医療と福祉です。難治てんかんの方の家庭生活の場合、本人、家族、医療および福祉の役割分担はおそらく、2:7:1ぐらいで、多くを家族が担っていると思います。単身あるいは共同生活ではそれを本人と医療および福祉が分担しなくてはなりません。そこで、下記のことが必要になってきます。

1)服薬管理ができること。

抗てんかん薬を定時服薬できることが、まずは最も大事です。もしできない場合は、共同生活者の中にそれを責任もってできる方がいれば可能だと思います。

2)最低限の安全は本人が確保できること。

日本の場合、鍵はかけ忘れても多くは泥棒程度ですみますので、これは再重要ではありません。火の始末だけは本人が自力でできることが必要です。できにくい場合は、現在はガスを使わなくても調理のできる電磁調理器や自動的に働く家電がありますのでそれを最大限利用しましょう。

3)経済的な裏付けがあること。

働いている場合は賃金収入、そうでない場合は年金あるいは生活保護などの福祉面のバックアップによって人一人が暮らせるお金が必要です。この管理は本人ができれば理想的ですが、そうでない場合は家族など代理の人が管理して1週毎などに本人に渡してもかまわないと思います。家賃を節約するため、複数で部屋を借りても良いと思います。

4)医療と福祉の協力が得られること。

現在自分がてんかんの治療をしている病院になるべく近く居住し、通院が負担にならないように、またなにかの時はすぐ救急車などででも受診できるようにしておくことが肝要です。毎日の安否の確認のために病院のケースワーカー、地域の訪問看護、福祉ヘルパーなどのサービスを最大限受けられるように手配することも大事です。

5)社会参加の道を作ること。

働いている場合はそれ自体が社会参加ですから、特に意図する必要はありませんが、そうでない場合必要となります。つまり家族を離れて生活しても閉じ込もって1日テレビをみて過ごしていては長続きせず、意義も乏しいからです。訓練所、作業所、デイケア、学校、教室に通うのもよいですし、地域のサークルに参加するのも良いと思います。

6)うまくいかなかった時にやりなおしがきくようにしておくこと。

例えば、全財産を処分して単身や共同生活を始めた場合、あるいは家族の反対を押し切って家を出た場合などは、うまくいかなかった時や発作の調子が悪くなった時などにもとの生活にもどることが困難です。うまくいかなかった時はやりなおすつもりで、臨むことが大事です。仮に3年間単身で暮らし、再び家庭へ戻ってもその3年間は世間を知るための勉強になったわけですから失敗ではありません。

以上、考えたことを列記しましたが、最近知り合ったある患者さんは、難治てんかん、片マヒ、知能障害の重複障害を有していますが、家族を離れ3名の方とアパートを借りて生活しています。両親と世帯を分離して生活保護を受け、保護費と年金を生活費にしています。4名で余ったお金を出し合い、共同でヘルパーを雇って、掃除や食事などの援助をしてもらい、日中は地域の作業所へ通っています。両親は、精神的なバックアップをしながら、見守っています。

この生活を構築し、はやくから“親なき後”の愁いをなくすべく努力してこられた両親と本人の姿勢に、私は尊敬の気持ちを抱きました。難治てんかんの方の両親は、成人、小児にかかわらず、“親のしっかりしているうちは”と、なるべく援助を受けずに介護しようと努力されます。それも一つの方法ですが、“親のしっかりしているうちに”援助をうまく受けれるよう手配することも大事だと思います。その人に何が必要かは実際に介護している両親が最もよく知っているわけですから、両親は最も優れた“介護コーディネーター”なのです。