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第6章 摂食機能療法と失語症への取り組み

言語聴覚士には、さまざまな可能性がありますが、今回は当院において実施している小児の摂食機能療法と、てんかん外科における術後の失語症の訓練についてご紹介します。

1.小児の摂食機能療法について

当センターでは「食事をほとんど食べられない」、「むせてしまう」、「上手に噛めない」、「固形物が食べられない」、「経管栄養から経口摂取に移行したい」などの問題を抱えた方々に少しでも安全に、楽しく食事ができるように言語聴覚士が中心となって援助しています。

摂食や嚥下に障害があることは、生きてゆく上で大きな問題を投げかけます。ひとつは、誤嚥性肺炎や窒息の危険が増したり、脱水や低栄養などの合併症など、生命に関わる問題の原因になります。また、食べる楽しみを失うなど心理的問題にも発展します。

「食べる」ことは生命維持のために必要なことであり、子どもにとってはいろいろな刺激を受け、運動や感覚の発達にもつながっているとても大切なことです。成人の摂食・嚥下障害は一度失った機能を取り戻すための訓練を行ないますが、小児は食べるために必要な口や咽頭の機能、形態が成長・発達途上にあるため、発達段階を追った対応が必要となります。

訓練について

まず初めに言語聴覚士が実際食事を食べているところをみさせて頂き、全体の発達、発作、口の動きや姿勢、食事の食べさせ方などを観察します。

また口の中に異常がないか、身体や口周辺の過敏はないかなどをみさせて頂いたり、親御さんから食事や生活などについての情報を聞かせて頂きます。観察によって発達の程度や遅れの原因、どうしたらうまく食べられるかなどを考えていきます。

総合的な判断のもと個々に応じた訓練を行なっていきます。食事の形態を適切なものにする、食事時のむせやすい姿勢や送り込みにくい姿勢を変える(図1、2)、スプーンやコップなど適切なものを使用する(図3)、口の動きを引き出すような食べさせ方にする(図4、5)などを行ない、親御さんに指導していきます。中には発作が多かったり、抗てんかん薬の影響で眠気が強かったり、生活のリズムがうまく作れず食事が進まないお子さんも多くみられます。

訓練・指導は時として、一般的に言われていることがその子の発達状況には適さないことがあります。そのためその子に合った食事の形態、姿勢、食器、食べさせ方などを見つけてあげることが大切です。月齢などにこだわらず、機能発達に合わせた食事環境、食事内容にするように指導していきます。

また、姿勢に関しては安定しリラックスした姿勢で食事をするために、理学療法士と協力して本人に合った座位保持椅子などを作成することもあります。摂取カロリーや訓練食の作り方の指導は栄養士が中心となって行なっています。

2.てんかんの術後失語症となった方の言語訓練

失語症とは『習得された言語機能が、脳の損傷によって崩壊してしまうことにより生じることばの障害』のことをいいます。ことばは、大脳の中でも言語野と呼ばれる部位と深く関係しています。

てんかん発作を起こす場所がその言語野を含む、あるいは周辺部位にあり、その部位が手術によって損傷すると失語症が起こると考えられます。ことばの障害は話すことができなくなるだけでなく、相手の言っていることがしっかり理解できない、文字が書けない、読めないなどの症状があります。脳の障害部位によって症状や重症度が異なります。

当センターでは、年間50数例の焦点切除術を行なっています。そのうち術後、失語症となり言語訓練が必要とされ訓練が必要となる方は年間数名です。症状が一過性で終わる方が大半を占めています。

訓練は、まず失語症の検査を行ない、ことばの障害の有無、障害のタイプ、重症度などを調べます。結果に基づき、機能回復のための訓練へとつなげていきます。中には、今までできていたことができなくなってしまったため、精神的に落ち込んでしまう方もいらっしゃいます。このようなことがないよう術前に、起こり得る合併症について十分説明し、納得していただく必要があります。そのことにより、術後早期から積極的にリハビリテーションに取り組むことが可能となります。このように術後、早期から訓練を行なうことによって、ほとんどの方は1ヶ月くらいで症状が改善されます。

一方、残念ながら後遺症として永続的に失語症が残ってしまった方が、ごくわずかですがいらっしゃいます。これらの方々の術後のことばの障害は、手術の部位、方法により術前に十分予測されますから、合併障害については特に慎重に話し合うとともに、術前から言葉の機能の検査を行い、術後の状態の評価や、訓練の参考にすることが大切です。これらの方には、心理的サポートや障害の受容のサポート、家族の協力を得たコミュニケーション手段の確立なども重要な訓練の一つとなります。

術後に永続的な言葉の障害が残った方のほとんどが、発作は抑制されており、発作の消失によるQOLの改善は、言葉の障害を加味しても満足できる状態にあります。

このように、言語聴覚療法はてんかんリハビリテーション、あるいはてんかんの包括治療において重要な役割を果たしています。

引用:金子芳洋(編)食べる機能の障害—その考え方とリハビリテーション p69

第5回日本摂食・嚥下リハビリテーション学会学術大会摂食・嚥下技術セミナー p36,39

言語聴覚士 西條直子