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てんかん外科治療の適応と手術成績

はじめに

てんかんは「種々の病因による慢性の脳疾患であって、大脳ニューロンの過剰な発射に由来する反復性の発作(てんかん発作)を特徴とし、多様な臨床徴候ならびに検査所見を伴う」と定義されます。この十数年の間に医療は飛躍的に進歩し、MRI、SPECT、PET、脳磁図などの診断器機が登場しました。脳波も多チャンネルのデジタル化が進み、種々の病因や過剰発射の検出が可能になっています。頭蓋内脳波も改良が加えられ、発作発射の起始・拡延と発作症状を対比させた解析が容易になり、てんかん病態の多くが解明されてきました。

しかし、未知の領域は余りに大きく広がっています。脳にメスを加える手術は非可逆的な影響をもたらしますので、極めて慎重な対応が求められます。

手術適応

手術で発作が根治し、機能障害も全く起こらないのであれば、薬物治療を引き合いに出す必要はありません。しかし、発作が治ることを術前に確約することはどんな場合でもできないでしょう。しかも、機能障害は全く起こらないとしても、脳の一部を切除することになりますので、この代償を考えると、外科治療の対象は薬物治療で発作が抑制されない症例に限られます。

次に、薬物抵抗性(難治性)をどのようにして、またどの時点で判定するかについては、主な抗てんかん薬(カルバマゼピン、フェニトイン、フェノバール、ゾニサミド、バルプロ酸など)の2剤についての単剤療法(または併用療法)を行っても、発作が抑制されない状態が2年も持続すれば、その後に発作が消失する可能性は10%以下であるといいます。発作がある状態が長期に持続していれば、発作の内容・頻度によっては、就学、就労、家庭・社会生活が著しく障害されます。対人関係における心理的葛藤は計り知れないでしょう。発育段階にある小児では認知機能が強く障害されます。てんかん病態も進行し難治化が助長されます。薬物の副作用も無視できないでしょう。

そこで手術の成功率が高く、機能障害も日常生活に支障がないもので受容できるのであれば、2剤・2年後の発作消失率10%に賭けるよりは、外科治療に期待した方がよいという考え方が成り立ちます。このグループに属するのは、海馬硬化を伴う内側側頭葉てんかんや、MRIで小さな限局性の病変が検出され、その領域を切除してもほとんど機能障害は残らないと予想される症例です。一方、手術してもよくなる可能性が低い、あるいは重篤な機能障害が確実に起こる場合は、薬物治療に期待し長期の多剤併用にならざるを得ません。その後に行われる手術は、今日でもやむを得ない手段であり、運動麻痺や失語症を覚悟しなければならない症例やMRIで限局性病変を認めない部分てんかん、あるいは脳梁離断術の適応となる症例が、このグループに入ります。

これは手術適応についての一般的な考え方であり、実際にはケースバイケースの対応が求められます。手術により予想される機能障害の他に、手術では予期しない合併症も起こり得ますので、手術で得るものと手術で失うものについて患者本人と家族で十分に話し合います。この得失に対する考え方の理解が重要です。

外科治療の対象となるてんかん

以下の5つに分けて考えると理解しやすいでしょう。図は最近の5年間(1999~2003)に手術した277例をこれらのグループに分けたものです。この時期、脳梁離断術は行っていません。また、参考までに術後2年以上が経過した512例の成績を表1と表2に示します。表1では側頭葉てんかんと側頭葉外てんかんに二分しました。表2では内側側頭葉てんかん、器質病変によるもの、およびMRI病変を認めないものの3群に分けました。半球切除術の症例は器質病変による群に含まれます。

1.内側側頭葉てんかん

発作発射が側頭葉の内側構造(海馬、扁桃体、海馬傍回など)から起始する症例は、推定病因、臨床経過、発作症状、脳波所見、および画像所見がほぼ共通していることから、一つの症候群とみなされるようになりました。これは超伝導MRIの出現に負うところが大きいと考えられます。病理学的基盤の海馬硬化(海馬の萎縮やT2延長所見)が検出されるようになったからなのです。

30~40%の症例はけいれん重積の既往を有します。ほとんどが20歳以前に発病し、初発年齢の平均は約10歳であり、薬物治療で発作はいったん緩解することが多いのですが、再発すると難治に経過する傾向があります。上腹部違和感などの前兆があり、意識が減損し身振り自動症などを認める発作が週単位にみられます。発作間歇時の脳波では前側頭部に棘波が検出されます。SPECTでは同側の血流低下を認めます。

このような臨床経過、発作症状、検査所見を呈し、発作が右か左のどちらか一方から始まることに疑いの余地がなければ、頭蓋内脳波は必要としません。70~80%の症例で頭蓋内脳波を省略することができます。手術は選択的扁桃体海馬切除術を行います。切除範囲は一定しており、親指位の大きさが除かれます。これにより80%の症例で発作が消失し、残りの20%では再発しますが、再発しても約半数は年3回以下です。

2.器質病変によるもの

皮質形成異常、良性腫瘍、血管腫、頭部外傷・血管障害・脳炎・てんかん外科以外の手術などによる脳損傷、その他、種々雑多な病変によって生じた部分てんかんがここに入ります。ことに皮質形成異常が重要であり、これも超伝導MRIによって検出されるようになったものであり、側頭葉以外の脳葉(前頭葉、頭頂葉、後頭葉)では病因の約50%を占めます。

このような病変による場合、発作発射が起始する“てんかん原性領域”は器質病変の周辺と皮質形成異常では病変自体にも存在しますので、器質病変の部位・広がりと、その周辺のてんかん原性領域がどこまで広がっているかを調べることになります。MRI、脳磁図、発作時脳波、発作症状、発作時SPECTなどの所見を総合して推定しますが、頭蓋外からの情報だけでは不十分なことが多いので、基本的には頭蓋内脳波が必要になってきます。

推定されるてんかん原性領域を中心に硬膜下電極を脳表に広く敷き、約3週間留置して自発性に起こる発作発射がどこから始まってどこに波及するかを調べます。また側頭葉外には機能的に重要な領域が多いのですが、硬膜下電極を通して皮質表面を刺激しますと、電極直下の機能がわかりますので、機能的に重要な領域がどこかを調べます。

発作の根治を図るためには、病変部位を含みその周囲をできるだけ広く切除した方が望ましいといえます。しかし、機能はできるだけ温存しなければなりません。必要最小限の領域を切除することになりますが、それでも発作の根治と機能の保持のどちらをより優先させるか、それによって切除範囲は異なってくることもありますので、頭蓋内脳波後に全ての情報が揃った段階で、本人・家族と十分に話し合うことになります。

比較的小さな病変による症例の手術成績はよく、内側側頭葉てんかんよりむしろ優ります。しかし、大きな病変ではてんかん原性領域も広く、機能的に重要な領域に跨っていることが多いので、発作消失率は60~70%に留まります。

3.一側半球の障害によるもの

一側大脳半球の広い範囲から発作が起こる症例では、その半球を切除します。一側半球を解剖学的に全摘すると、水頭症などの合併症による死亡率が高いことから、最近では大脳皮質は残して投射線維を切離する術式(機能的半球切除術)が行われるようになりました。しかし、機能的には同じことであり、一側半球を切除すると片麻痺や半盲、優位側では言語障害が起こりますので、このような機能障害がすでに存在する症例が手術の対象になります。疾患としては、様々な病因による乳児片麻痺、半側巨脳症、広範な皮質形成異常、スタージュウエーバー病、ラスムッセン症候群などです。ラスムッセン症候群では運動麻痺と脳萎縮が進行性に増悪しますので、片麻痺が完成しなくても手術は早めに行った方がよいでしょう。発作が一側半球のみから起こる場合、手術で発作は消失します。しかし、対側にもてんかん原性が存在していた症例では、改善はしても発作が残ることになります。

4.MRI病変を認めないもの

発作症状や脳波所見から部分てんかんと診断されるが、MRIでは明らかな器質病変を認めない症例のことです。このような症例の場合、頭蓋内脳波は必須であり、MEGダイポールの表在性集積、発作時SPECTにおける限局性高灌流域、要素性の発作症状などを手掛かりに硬膜下電極を留置して検索し、その結果に基づいて手術を行いますが、それでも発作消失率は50%を割り、上記の3つのグループに比べ手術成績は思わしくありません。

5.二次性全般化により転倒するもの

これに対しては脳梁離断術が有効とされます。脳梁は左右の大脳半球を結ぶ神経線維の太い束であり、これを離断すると発作発射の両側同期化が抑制され全般性の脱力発作や強直発作が軽減するといいます。この手術は軟膜下多切術(MST)と同様に遮断外科に属し、てんかん原性領域を除去し発作の根治を図る切除外科ではありません。最近まで大脳半球切除術の適応となる症例や前頭葉てんかんにも行われていましたが、レノックス・ガストー症候群やその他の続発全般てんかんで急激に転倒し外傷が絶えない症例に限定すべきでしょう。

おわりに

発症早期にMRI(FLAIR画像)を行います。また早期から外科治療を視野に入れた診療がなされ、手術のタイミングを逃さないようにすべきです。術後は自立した生活に復帰するための支援を必要としますので、手術はてんかんの包括医療の体制が整った、しかも多くの経験を積んだ施設で行われることが望ましいでしょう。

(三原忠紘)

本稿は、2005年度日本てんかん協会「基礎講座」で使用された当院の職員による文章を、同協会の許諾を得て、転載したものです。