てんかん情報センター

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てんかんと自動車保険

てんかんという病気があっても、一定の条件のもとでは自動車運転免許を取得することができます。
その条件とは以下の通りです(文献 1、2)。

  1. 発作が過去 5 年間以内に起こったことがなく、医師が「今後発作が起こるおそれがない」旨の診断を行った場合
  2. 運転に支障をきたす発作が過去 2 年間以内に起こったことがなく、医師が「今後、x 年程度であれば、発作が起こるおそれがない」旨の診断を行った場合
  3. 医師が、1 年間の経過観察の後「発作が意識障害及び運動障害を伴わない単純部分発 作に限られ、今後、症状の悪化のおそれがない」旨の診断を行った場合(ただし上記2の 発作が過去 2 年間以内に起こったことがないのが前提)
  4. 医師が 2 年間経過観察をした後「発作が睡眠中に限って起こっており、今後症状悪化 のおそれがない」旨の診断を行った場合

(「一定の病気に係る免許の可否等の運用基準」より抜粋)

さて自動車を使用する場合には、保険への加入が義務づけられます(自賠責保険)。万一 のとき、被害者や遺族に対して最低限の賠償金を確保するためです。しかし重大な事故の場合には上記の保険だけでは不足し、また物損事故等には対応できないため、任意で他の 保険にも加入するのが一般的となっています。この保険料率には種々の条件が考慮され、危険度(事故率・損害率)の高低も勘案されます。また、補償の際にも種々の条件が考慮されます。この条件の考え方は一律ではなく、会社によって異なります。

日本てんかん学会法的問題検討委員会では、自動車任意保険の現状を把握するため、自動車任意保険を取り扱う損害保険会社を対象としたアンケート調査を平成 18 年に実施しました(文献 3)。送付した損害保険会社 15 社のうち 8 社がアンケートに回答し、その結果は以下の通りでした。

1. 保険加入について

1) てんかんなど病気に関する条項はなく、特定の病名による加入制限もない(全社)

2) 病気があっても合法的な運転資格があれば、加入は無条件で認める(全社)

3) ただし過去の事故多発歴や事故状況から個別に加入を拒否する場合がある(8 社中 5 社)

2.保険金支払いについて

1) 特定の病名により保険金支払いを拒否することはない(全社)

2) 保険の種類(対人、対物、自損事故、搭乗者、車両など)により支払い条件が異なり(8社中5社)、すでに存在していた疾病の影響を減額する(8社中5社)、事故の先行 原因が疾病の場合は支払いを拒否する(8 社中1社)ことがある

3) てんかん発作による事故ではより慎重に審査を求めるケース(8社中2社)や、拒否するケース(8社中2社)がある

4) 支払い審査は主治医所見(服薬や治療状況を含む)をもとに社内審査で個別に判断する(8社中3社)

この結果からは、病名で区別はされないこと、合法的な運転資格を前提とすること、個別のケースで審査されることがあることが明らかになっています。

任意保険には、被害者に対する補償、自分の傷害に対する補償、そして車のための補償があります。被害者に対する補償は、過失の割合に応じて基本的には支払われるのが通例です。一方、自分や同乗者の傷害や車に対する保険(自損事故保険・搭乗者傷害保険・人 身傷害補償保険など)では、「急激かつ偶然な外来の事故」によって身体や車に傷害・損害を被ることが支払いの要件となり、てんかん発作の症状が重度・頻繁であるような場合には「偶然性」について否定されることもありえます。しかし合法的に運転免許を取得している場合であれば、「偶然な」事故として取り扱われます。

結局、合法的な運転資格をもち、任意保険への加入や継続の時点でそのことをあらかじめ伝えた上で、支払い条件を十分確認し、納得して契約することが大切でしょう。

自動車を運転する場合には、てんかんをもつ人の法的責任としては次の点が挙げられます。

  • 免許取得・継続申請に際しての病状の申告は法的義務ではないが、社会に対する責任である
  • 事故の場合、公安委員会から適性検査済証を交付されている場合は、発作との関係で責任が加重されることはない
  • 病状が基準に適合しないことを知っていながら取得時に申告していないと、民事・刑事の責任が加重される
  • 免許取得後に基準に適合しなくなったのに申告していなかった場合にも、責任加重の原因となりうる

自動車任意保険についても同様の基準が該当すると思われます。合法的に免許を取得していることがもっとも大切です。

文献
  1. 道路交通法改正にともなう運転免許の判定について.てんかん研究 20(2):135-8, 2002
  2. 運転免許にかかわる道路交通法改正について:日本てんかん学会の見解と今後の対応。 波 2002; 26: 192-5
  3. てんかんをもつ人の自動車任意保険の現況:加入資格と支払い条件に関する調査。てんかん研究 2007;25:22-26

静岡てんかん神経医療センター 井上有史

(日本てんかん協会東京都支部機関誌「ともしび」(2008)より転載許諾)