ラスムッセン症候群(脳炎)の免疫修飾治療の有効性が明らかに

Yukitoshi Takahashi, et al., Brain & Development, 2013; 35: 778-785.

1. 研究成果のポイント

  • ラスムッセン症候群(脳炎)49例において、免疫修飾治療の日本人での有効性を初めて明らかにした。
  • 50%レスポンダー率(発作が50%以上減少した症例の割合)は、定期的メチルプレドニゾロンパルス治療では81%、タクロリムス治療では42%、定期的免疫グロブリン治療では23%であった。
  • R80(治療後IQが80以上に保てた症例の割合)は、定期的メチルプレドニゾロンパルス治療では50%、タクロリムス治療では29%、定期的免疫グロブリン治療では43%(半球離断術では0%)であった。
  • 定期的メチルプレドニゾロンパルス治療のR80は、MRI病変のない症例では100%、進行したMRI病変のある症例では37%であった。
  • 運動機能の悪化率は、定期的メチルプレドニゾロンパルス治療では10%、タクロリムス治療では0%、定期的免疫グロブリン治療では62%、半球離断術では100%であった。

2. 研究の背景

    図1
  • Rasmussen 症候群(脳炎)は、細胞傷害性T細胞が発病初期に主な役割を担う免疫介在性のてんかんである。
  • 感染等によって細胞傷害性T 細胞、ミクログリアが活性化されている。
  • GluR3抗体などの抗神経抗体は、発病における役割はないとされている。
  • 抗てんかん薬治療のみでは、認知機能や運動機能が退行し、寝たきりとなる(図1)
  • 早期診断、早期免疫修飾治療の導入が予後改善に重要である。

3-1. 研究の成果: てんかん発作への効果

    図2
  • 対象は、定期的メチルプレドニゾロンパルス治療21例、タクロリムス治療12例、定期的免疫グロブリン治療13例、半球離断術7例。
  • てんかん発作への効果(発作予後)は、各治療開始前のてんかん発作頻度と治療開始後のてんかん発作頻度の比率で判定した。
  • 発作抑制、発作が消失した症例; 発作減少、発作が50%以上減少; 発作不変、発作が±49%以内の変化;発作悪化、発作が50%以上増加。
  • 定期的メチルプレドニゾロンパルス治療は定期的免疫グロブリン治療に比べて有意に予後が良かった(図2)。
  • 発作抑制症例の割合は、定期的メチルプレドニゾロンパルス治療では5%、タクロリムス治療では8%、定期的免疫グロブリン治療では0%であった。
  • 50%レスポンダー率(発作が50%以上減少した症例の割合)は、定期的メチルプレドニゾロンパルス治療では81%、タクロリムス治療では42%、定期的免疫グロブリン治療では23%であった。

3-2. 研究の成果: 認知機能への効果

    図3-4
  • 認知機能への効果(認知予後)は、各治療開始前後のIQ(DQ)で判定した。
  • 改善、IQが11以上上昇した症例; 不変、IQが±10%以内の変化;低下、 IQが11以上低下した症例に分類。
  • IQが低下しなかった症例の割合は、定期的メチルプレドニゾロンパルス治療では76%、タクロリムス治療では75%、定期的免疫グロブリン治療では45%であった(図3)。
  • R80(IQが80以上に維持できている症例の割合)は、定期的メチルプレドニゾロンパルス治療では50%、タクロリムス治療では29%、定期的免疫グロブリン治療では43%であった(図4)。半球離断術では0%であった。

3-3. 研究の成果: 運動機能への効果

図5
  • 運動機能への効果は、各治療開始前後の運動能力変化で判定した。
  • 定期的メチルプレドニゾロンパルス治療では10%、タクロリムス治療では0%、定期的免疫グロブリン治療では62%が悪化した(図5)。

4. 研究成果が社会に与える影響

    図6
  • ラスムッセン脳炎(症候群)の免疫修飾治療効果を、これまでの世界の報告の中で最多となる症例数で、日本人で明らかにした。
  • 定期的メチルプレドニゾロンパルス治療(21例)では、てんかん発作を完全には抑制できないが81%に有効、運動機能保護、認知機能保護にも有効であった。
  • タクロリムス治療(12例)では、てんかん発作に42%で有効、運動機能保護に有効であった。
  • 定期的免疫グロブリン治療(13例)では、てんかん発作には効果不十分で、運動機能保護、認知機能保護にも効果は不十分であった。
  • てんかん発作が頻回の時には定期的メチルプレドニゾロンパルス治療をまず開始し、てんかん発作を減らし、認知機能保護をはかり、1-2年でタクロリムス治療に移行し、運動機能保護に努める治療戦略が推奨された。
  • 早期診断に努め、免疫修飾治療を早期に開始することで、てんかん発作の緩和、認知機能・運動機能が保護されることが期待できるようになった(図6)。

5. 特記事項

  • 本研究成果は、2013年2月19日に日本小児神経学会英文誌「Brain & Development」に掲載されました。
  • Immunomodulatory therapy versus surgery for Rasmussen syndrome in early childhood - PubMed (nih.gov)
  • 【タイトル】 “Immunomodulatory therapy versus surgery for Rasmussen syndrome in early childhood”
  • 【著者名】 Yukitoshi Takahashi, Etsuko Yamazaki, Jun Mine, Yuko Kubota, Katsumi Imai, Yuki Mogami, Koichi Baba, Kazumi Matsuda, Hirokazu Oguni, Kenji Sugai, Yoko Ohtsuka, Tateki Fujiwara, Yushi Inoue.
  • 【連絡先】 高橋幸利 takahashi-ped@umin.ac.jp